
近年、経済情勢などによりパートタイム(フリーターも含む)で働く人の数は増え続けています。
しかし、労使ともにパートタイマーに関する労働・社会保険の法律についての理解が少ないことから会社と労働者の間でのトラブルも少なくありません。
ここでは、パートタイマーとして働く上で知っておきたいポイントをいくつか挙げてみましたので、参考にしてください。
ただし、パートに限らず正社員の場合もそうですが、労働保険・社会保険については残念ながら、法律どおりに適用されていない面も多々あります。トラブルに巻き込まれないように知識を持つことは大切ですが、知識武装をして自分が会社に対してトラブルメーカーにならないよう注意しましょう。
@パートタイマーと労働法
平成5年12月より、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(通称「パートタイム労働法」)が施行されており、短時間労働者の適正な労働条件の確保といった雇用管理の改善や職業能力の開発・向上に関する措置などを事業主が講ずることによって、短時間労働者がその能力を有効に発揮できるようにし、それによって短時間労働者の福祉の増進を図ることを目的としています。
パートタイム労働法による「短時間労働者」とは、1週間の所定労働時間が同じ事業所の通常の労働者(正社員)よりも短い労働者のことをいいます。「パート」、「アルバイト」、「嘱託社員」、「契約社員」、「臨時社員」などの名称に関係なく、通常の労働者よりも所定労働時間が短ければ法の対象になります。
A労働契約と就業規則
「1日6時間労働」「時給1000円で働く」といった、労働時間や賃金の取り決めを労働契約といいます。通常、働き始める前に労働契約を結びますが、労働基準法では次の労働条件を明らかにした書面を労働者に交付するよう事業主に義務付けています。
@労働契約の期間に関すること
A仕事をする場所、仕事の内容
B始業および終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関すること
C賃金の決定、計算および支払いの方法、賃金の締め切り、支払いの時期、昇給に関するこ
と(昇給に関しては書面の交付は義務付けられていません)
D退職に関すること
このほか、賞与、退職金などを支払うことになっている場合には、それらを明示する義務があります。
パートタイマーの労働契約については口頭によるものが多いようですが、パートタイム労働法に基づく「指針」では、事業主がパートタイマーを雇い入れたときの労働契約について、労働条件の明示は書面の交付によるものとされているので、「労働条件通知書」(雇入通知書)あるいはそれに準ずるものを交付してもらえるよう、事業主に頼んでみましょう。
始業・終業の時刻、休憩時間、休日、賃金の決定・計算・支払方法、退職に関する事項など、労働者の労働条件を定めたものが就業規則です。常時10人以上の労働者(パートタイマーも含む)を雇用する事業主は就業規則を作成し、事業場の見やすい場所に掲示することなどが義務付けられています。
就業規則は、パートタイマーにも適用されます。事業主は正社員の就業規則に特別な規定を設けるか、正社員のものとは別に、パートタイマーに適用される就業規則を作成しなければなりません。
B最低賃金
事業主は最低賃金法に基づいて定められた地域別・産業別の最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。これは、パート、アルバイト、臨時社員など、年齢、性別、国籍の区別なく、すべての労働者に適用されます。最低賃金額は毎年改定されています。また、下記のものは最低賃金額に算入されません。
@精皆勤手当、通勤手当、家族手当
A臨時に支払われる賃金
B賞与など、1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
C所定時間外労働、所定休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金
C年次有給休暇
パートタイマーであっても、6ヵ月間継続勤務し、所定労働日の8割以上出勤した場合は年次有給休暇が取得できます。また、1回の雇用期間が1ヵ月あるいは3ヵ月と定めて勤務する場合でも、契約を更新して6ヵ月以上継続勤務している場合には、同様に付与されます。
所定労働時間や所定労働日数の少ないパートタイマーには、通常の労働者(正社員)との均衡を図るため、「比例付与」の方法で付与日数が決められています。なお、付与の年に取得しなかった有給は翌年に限り繰り越すことができます。ただし、退職日以降に取得することはできません。
短時間労働者の週指定労働時間 |
短時間労働者の週所定労働日数 |
短時間労働者の1年間の所定労働日数(週以外の期間によって労働日数を定めている場合) |
雇入日から起算した継続勤務期間の区分に応ずる年次有給休暇の付与日数 |
6カ月 |
1年
6カ月 |
2年
6カ月 |
3年
6カ月 |
4年
6カ月 |
5年
6カ月 |
6年
6カ月
以上 |
30時間以上 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
18日 |
20日 |
30時間未満 |
5日以上 |
217日以上 |
4日 |
169日〜216日 |
7日 |
8日 |
9日 |
10日 |
12日 |
13日 |
15日 |
3日 |
121日〜168日 |
5日 |
6日 |
6日 |
8日 |
9日 |
10日 |
11日 |
2日 |
73日〜120日 |
3日 |
4日 |
4日 |
5日 |
6日 |
6日 |
7日 |
1日 |
48日〜72日 |
1日 |
2日 |
2日 |
2日 |
3日 |
3日 |
3日 |
D時間外労働と割増賃金
パートタイマーが1日の所定労働時間を超えて働く場合の賃金がどのように取り扱われるのか、「1日6時間」のパートタイマーを例にとって説明します。
労働基準法の「1日8時間」の原則は、パートタイマーにも適用されます。6時間から8時間の間までは通常の賃金を支払えばよいのですが、8時間を超えた場合には超えた分について、通常の賃金の2割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。
また、深夜労働(午後10時から午前5時まで) の場合は2割5分以上、休日労働(1週1回と決められた休日―法定休日)の場合には3割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。
したがって、時間外労働と深夜労働、休日労働と深夜労働といったように重なる場合はそれぞれ5割以上、6割以上の割増賃金が支払われることになります。
E労働災害
パートタイマーとして働いていて、業務中にケガをしたり病気になったりした場合には、一般の労働者と同様に業務上の災害として取り扱われ、労災保険(労働者災害補償保険)が適用されます。
また、通勤途中に災害にあってケガをしたり病気になったりした場合にも、業務上災害と同じ給付が受けられます。
保険料は、全額事業主負担なので、労働者が負担する必要はありません。
給付内容には下記のものがあります。
療養(補償)給付 |
療養にかかった費用が支給されます。 |
休業(補償)給付 |
療養のため仕事をすることができず、賃金がもらえない場合に、平均賃金の6割と特別支給金として2割が支給されます。 |
障害(補償)給付 |
ケガや病気が治ったあとに障害が残っている場合に支給されます。 |
遺族(補償)給付 |
死亡した場合に、一定の条件にあった遺族に対して年金または一時 金として支給されます。 |
葬祭料(葬祭給付) |
葬祭を行った人に支給されます。 |
傷病(補償)年金 |
療養を開始して1年6ヵ月を経過しても治らず、その傷病が労働省令で定める等級に該当し、なお引き続き療養をしている場合に支給されます。 |
介護(補償)給付 |
障害が労働省令で定める程度である重度被災労働者を対象として、常時または随時介護を要する状態にあって、介護を受けている場合 に支給されます。 |
F雇用保険
雇用保険は、労働者が失業し、働く意思と能力があるにもかかわらず再就職ができない場合に、必要な給付を一定期間行って、生活の安定と再就職の促進を図ることを目的としています。
パートタイマーでも、次の用件を満たし、賃金、労働時間、その他の労働条件が労働契約書などに定められていれば、雇用保険の被保険者となります。(短時間労働被保険者)
@ 一週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満であること
A 1年以上引き続き雇用されることが見込まれること
1週間の所定労働時間が30時間以上の場合には、通常の労働者と同じ扱いになります。 (一般被保険者)
G健康保険・厚生年金保険
パートタイマーが被保険者になるかどうかは、1日または1週間の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が、その事業所において同種の業務に従事する通常の労働者のおおむね4分の3以上あれば被保険者とするのが妥当とされています。
[具体例]
|
1日の所定労働時間 |
1月の所定労働日数 |
被保険者となるか否か |
1週の所定労働時間 |
通常の労働者 |
8時間 |
21日 |
被保険者 |
40時間 |
パートタイマーA |
6時間(○) |
21日(○) |
被保険者となる |
30時間(○) |
パートタイマーB |
3時間(×) |
10日(×) |
被保険者とならない |
15時間(×) |
パートタイマーC |
7時間(○) |
10日(×) |
35時間(○) |
パートタイマーD |
4時間(×) |
21日(○) |
20時間(×) |
ただし、これらは一つの目安であり、一律にこれにあてはめられて決められるのではなく、就労の形態・内容を総合的に考えて判断されます。
健康保険と厚生年金保険の保険料は、賃金等の報酬を区切りのよい幅で区分した標準報酬月額にそれぞれの保険料率を乗じて計算されます。保険料率は、健康保険が82/1000、厚生年金保険が139.34/1000で、事業主と被保険者で折半負担します。さらに、40歳〜64歳の健康保険加入者の保険料には介護保険料率11.1/1000が上乗せされます。
H解雇
●契約期間を定めていない場合
一般の労働者と同様に、解雇には合理的な理由が必要です。また、合理的な理由があっても30日以上前に解雇の予告をする必要があります。「明日から来てもらわなくて結構」などの即時解雇の場合には、解雇予告手当として30日分以上の平均賃金が必要です。試用期間中であっても、採用から14日を超えて引き続き雇用されるようになった場合には、解雇予告期間または解雇予告手当が必要です。
●契約期間を定めている場合
3ヵ月、6ヵ月といった契約期間を定めている場合には、通常その期間がくれば退職することになります。しかし、契約期間を延長するようになったり、契約の更新を繰り返し、事実上期間の定めのない労働契約と認められる場合には、合理的な解雇理由と30日以上の解雇予告期間または解雇予告手当が必要となります。
I賞与・退職金
賃金とは異なり、賞与(ボーナス)や退職金は、必ず支給しなければならないといった法的な義務付けはありません。
Jパートタイマーと税金
●所得税
パートタイマーの収入は、通常給与所得となり、課税される給与所得は、年収から給与所得控除額(65万円)と基礎控除額(38万円)を差し引いた金額です。 年収が103万円以下ですと、所得税はかかりません。
●住民税
パートタイマーの年収が100万円以下の場合、住民税の非課税限度額は、給与所得控除額とあわせて100万円のため、課税されません。100万円を超えると、年収から給与所得控除額(65万円)と基礎控除額(33万円)を差し引いた残額に対して課税されることになります。
●配偶者控除
パートタイマー(妻)の配偶者(夫)が働いている場合を例にとると、妻の収入が一定額以下の場合に夫の所得から控除が受けられます。これを配偶者控除といい、妻が控除対象配偶者(年収103万円以下)である場合に所得税38万円、住民税33万円の控除が受けられます。
●配偶者特別控除
パートタイマー(妻)の年収が103万円を超えると配偶者控除は受けられなくなりますが、妻の収入が103万円以上141万円未満の場合で、夫の合計所得金額が1000万円以下の場合には、妻の収入に応じた配偶者特別控除額(最高38万円)が受けられます。
(平成16年分以降、妻が控除対象配偶者に該当する場合(給与所得のみである場合、給与の収入が103万円未満)に適用される配偶者特別控除については、廃止されました。
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